2021年夏の大注目映画「イン・ザ・ハイツ」の魅力大解剖!!パート2

“ミュージカルイヤー”2021年に公開される映画の中でも、最も注目を集めている「イン・ザ・ハイツ」の魅力を2回にわけて紹介しています!
パート1をまだ読んでいない人はこちらからチェックしてみてください♪
パート2では、読むだけで「イン・ザ・ハイツ」を何倍も楽しめる!
この映画の注目ポイントや裏話をドドンとご紹介していきます♪
ネタバレは一切ないので安心してご覧ください♪
ミュージカルが苦手でも楽しめるミュージカル映画?!
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ミュージカルって、キャラクター達が突然歌いだしたり、踊り出したりするから、ちょっと現実離れしていて苦手意識を持つ人も多いですよね。
しかし、イン・ザ・ハイツはミュージカルが苦手な人でも、エンジョイできる可能性大!!な映画なのです。
なぜかというと、音楽が普通のミュージカルとは全然違うから。
普通のミュージカルの、壮大でドラマチックな音楽とは違い、イン・ザ・ハイツは、ヒップホップ、ラップ、サルサ、R&Bなど、ミュージカルではあまり聞かないようなジャンルの音楽を使って物語が語られていきます。
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それは、まるで流行りのアーティストのアルバムを聞いているかのよう。
エモい曲もあれば、ブチ上がる曲もあり、どの曲もワクワクさせてくれるものばかりなんです!
もちろん、ミュージカルファンが聴いてもワクワクしちゃうような、古典的なミュージカル調の曲もあるので期待を裏切りません。
フリースタイルヒップホップグループのメンバーとして活躍し、小さい頃からミュージカルオタクで、ラテンのルーツをもつリン=マニュエル・ミランダだからこそ作り出せた、絶妙にバランスの取れたサウンドは、どんな人が聞いてもワクワクしちゃうこと間違いなし!
ミュージカルに苦手意識を持ってる人も、是非、サマーパーティー気分で劇場に足を運んでみてください♪
作品のインスピレーションはあの有名なミュージカル?
リン=マニュエル・ミランダが、イン・ザ・ハイツを作るきっかけになったと語っている作品があります。
それは、大ヒットミュージカル「レント」!
レントは公開当時、革新的な作品として高い評価を受け、それまで若者離れが進んでいたブロードウェイに多くの人を呼び戻した作品でした。
なぜそれほどまでに注目を集めたかというと、「当たり前の日常を描いた作品」だったから。
レントがブロードウェイで公開される少し前の80年代後半〜90年代、ブロードウェイを賑わせていたのは、「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」や「キャッツ」など海外の作品、歴史物、ファンタジーなどでした。
そんな雰囲気のブロードウェイに、ロックミュージックを使い、ニューヨークで暮らす若者達の日常を描いた作品が突如現れたからこそ、多くの人の興味を引いたわけなのですが、その作品を見に来ていた若者の1人が、リン=マニュエル・ミランダだったのです。
17歳の誕生日にレントを観劇したリンは、「なんだ、(ファンタジーや歴史物じゃなく)自分の知っていることをミュージカルにしてもいいのか!!」と、とてつもない衝撃を受けたそう。
この衝撃が彼の背中を押し、2年後にはイン・ザ・ハイツの執筆を始めています。
このようにレントから強い影響を受けたイン・ザ・ハイツには、レントの面影がたくさんあるのにも注目!
・主人公が複数いること
・ミュージカルには馴染みのないジャンルの音楽を使っていること
・社会問題を観客に問いかける側面があること
・夢を追いかける若者達を描いているところ
などなど!!
レントの面影を探しながらイン・ザ・ハイツを鑑賞してみるのもおすすめです♪
実は映画化するのに13年もかかった?!
実は、イン・ザ・ハイツ、ブロードウェイから映画館にまでたどり着くまでに13年もかかった作品なのをご存知でしょうか?
とにかく紆余曲折な映画化までの道のりを知っておくと、この映画に込められた思いやパワーをより強く感じられるかも?!
■ハイスクールミュージカルの監督で映画化が決まっていた…!
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ブロードウェイで公演を開始した2008年にはすでに、ユニバーサル・ピクチャーズと映画化する契約を結んでいたイン・ザ・ハイツ。
その当時、実はハイスクール・ミュージカルや、ディセンダントを手がけたケニー・オルテガを監督に迎え、映画化される予定で話が進んでいました!
しかし、予算面などで意見の相違がありプロジェクトは白紙に…
■あのセクハラ監督の手に渡ってしまうイン・ザ・ハイツ…
それから数年後の2016年、「英国王のスピーチ」など数々の大ヒット映画をプロデュースしてきた、ハーヴェイ・ワインスタインの映画製作会社「ワインスタインカンパニー」が、イン・ザ・ハイツの映画化権を獲得!ジョン・M・チュウが監督を務めることが報じられます。
が、ご存知の通り、2017年にワインスタインのセクハラ問題が浮上し社会問題に…
この問題を受け、製作陣はワインスタインカンパニーから映画化権を取り戻そうと動き出します。
半年ほどかかったものの、無事2018年4月に権利がリンと脚本家のキアラの元に戻り、翌月には、争奪戦の末、ワーナー・ブラザースが映画化権を獲得、やっと映画化が本格始動しました!
■撮影は順調に完了!しかし…
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撮影は2019年の夏に順調に行われ、やっと公開!!と思いきや、最後の壁が出現…
そう、ご存知の通りコロナウイルスの蔓延により世界的パンデミックが発生…
当初2020年6月に公開を予定していましたが、公開を1年遅らせるという判断が下されました…!!
■2021年6月、ついに全米で公開!
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このように紆余曲折の末、先日やっとアメリカでの公開を迎えたイン・ザ・ハイツ。
長い時間がかかったからこそ、製作陣の熱意やパワー、思いもひとしおなはず!劇場でそのパワーを感じたいものです♪
舞台であるワシントンハイツで実際に撮影!!!
📷| Behind the scenes photo from the set of #InTheHeightsMovie with @MelissaBarreraM, @iamstephbeatz, @daphnerubinvega, @jonmchu and @ARamosofficial pic.twitter.com/oevF83errY
— InTheHeightsMovie (@intheheightsfan) May 4, 2021
「ワシントンハイツで生まれ育ったリン=マニュエル・ミランダが、ワシントンハイツが舞台の、ワシントンハイツの物語を作り、ワシントンハイツで、ワシントンハイツの住民と撮影した!」
イン・ザ・ハイツはそんな映画です。
なんだか早口言葉みたいで、ややこしいかもしれませんが、この映画の魅力のひとつは、とにかくコミュニティーへの愛が詰まっているというところ。
ワシントンハイツの住人からエキストラを募集して映画に出演する機会を作ったり、映画のプレミアもワシントンハイツで行ったり…今でもワシントンハイツに住むリンの、コミュニティへの愛がとにかく溢れています!
リンだけではなく、出演者のダーシャポランコ、コーリーホーキンズ、レスリーグレースも実はワシントンハイツにゆかりがあり、とても感慨深い撮影だったと話しています。
Exclusive Behind The Scenes moment: I called cut. And nobody cut. This happened a lot. And it’s when I knew we were capturing something greater than ourselves. The time has come. #InTheHeightsMovie in THEATERS and @hbomax NOW pic.twitter.com/clMMxjNPoO
— Jon M. Chu (@jonmchu) June 10, 2021
(↑監督がカット!と言ったのに、大盛り上がりで誰1人現場から去る様子がなかった撮影現場)
撮影中は、どこまでがエキストラで、どこからが住人なのかが分からなくなってしまったこともあったくらい、熱気が溢れていたそう。
また、近所の人が差し入れをくれたり、監督のお母さんが消えたと思ったら、近所の人のお家に招かれて談笑していた、なんていうエピソードも!
そんな、愛と熱気に溢れるワシントンハイツの雰囲気をスクリーンを通して感じてみてください♪
トランプ前大統領とはさようなら?!
映画化に13年、そしてミュージカルが完成するまでにも約9年という歳月を費やしているイン・ザ・ハイツ。
つまり、リンが脚本を書き始めてから映画の公開までに約22年という歳月が流れたわけですが、それだけ長い時間が経てば、テクノロジー、価値観、政治的なことなど様々な点で変化が生じますよね。
イン・ザ・ハイツを映画化する上で製作陣は、この「時代の変化」にうまく対応しなければなりませんでした。
具体的に何をしたかというと、歌詞からドナルド・トランプ前大統領の名前を消したのです!
「96,000」という楽曲のオリジナル版では、
“I’ll be a businessman, richer than Nina’s daddy! Donald Trump and I on the links, and he’s my caddy!”
「俺はニーナの父さんより金持ちになって、ドナルド・トランプとゴルフに行くんだ、ちなみに彼は俺のキャディーだよ」
と歌われています。しかし映画版では、トランプの部分がタイガーウッズに変わっているのです!
(↓0:11秒ごろ、ベニーがゴルフクラブを持っているところ、「タイガーウッズ」と言ってますね!)
この変更について、作詞を手がけたリン=マニュエル・ミランダは、
「この歌詞を書いていた当時、ドナルド・トランプは金持ちの象徴だったが、時が経ち、彼はアメリカの民主主義の汚点となった。」
そのため、歌詞を変更する必要があったと語っています。
また、オリジナル版と映画版の脚本を手がけるキアラ・アレグリア・ヒューディスも、
「当時は、笑える冗談として彼の名前を入れたが、時が経つにつれ”冗談”では済まされなくなってきた。ラテンコミュニティを盛り上げよう、力付けようという作品なのに、その主役となるラテン系コミュニティがトランプによって傷つけられ、ダメージを受けてしまった」
そのため、冗談でもトランプ前大統領の名前を入れることは出来ない。という判断をしたと語っています。
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任期の4年間、メキシコとの国境に壁を作る発言から始まり、事あるごとに移民に対して消極的、攻撃的な発言を繰り返していたトランプ氏。
それに加え、DACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)の廃止や、国境で不法入国者の親子を引き離し収容した「ゼロ・トラレンス政策」など、ラテン系移民たちは4年間トランプ氏に翻弄され続けてきました。
リンも、キアラもプエルトリコ系移民の2世。そしてキャストのほとんども移民2世の今作で、ジョークとしてでもトランプの名前を使うことはしない。と判断したのも納得できますよね。
「96,000」は、ハイテンポで勢いのあるイン・ザ・ハイツを代表する楽曲の1つ!
内容も、キャラクター達が96,000ドル(日本円に換算すると約1000万円)を手にしたらどんなことをしよう?と次々と夢を語っていく素敵な曲!
そんな曲の中に、実は政治的で、考えさせられるバックストーリーがあることを知っていると、物語の内容がもっと心に沁みるかも??
ステレオタイプをぶち破れ!
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ジェニファー・ロペスなど、ハリウッドで活躍するラテン系俳優達が長年訴え続けていることがあります。
それは、ラテン系の役の少なさと、役の幅の狭さ。
ウェストサイド物語のシャーク団。ドラマ「モダンファミリー」のグロリア。刑事ドラマに出てくる麻薬組織、ギャングのメンバーなど…
ただでさえラテン系の役は少ないのに、その役のほとんどが、ギャング、ドラッグ、もしくはとてもセクシーな人、スペイン語訛りが強い、などといったステレオタイプ的な役ばかり。
多様性が叫ばれる昨今、演じる俳優達はもちろん、ラテン系コミュニティからも、「もっと正しい表現をして欲しい」という声が多く聞かれています。
もし、この不満がピンと来なかった、日本人に置き換えて考えてみるとわかりやすいかも。
ハリウッド映画に出てくる日本人は、寿司屋の人、刀振り回してる人、学者/研究者、芸者さんがほとんどで、奥ゆかしく、物静かな、おとなしい人として描かれることが多くあります。
一見、色々あるじゃないか!と思うかもしれないけれど、あなたはこの枠の中のどれかに当てはまりますか??
もちろん当てはまる人もいるかもしれないけれど、「日本には上記のような人しかいない」なんてことはなくて、もっと多種多様な人がいますよね。
しかし、映画に出てくる日本人が、芸者、寿司屋、侍ばかりだと、そのイメージが強くなってしまう。でもそれって、想像の話で、実際はもっと色々な人がいるんだよ??って思いませんか??
これが、ラテン系コミュニティが長年訴えてきたこと。
特に、ラテンコミュニティはアメリカの人口の約20%を占めているのに、間違った認識を植え付けられてしまうのは、心地がいいことではないし、何より、このステレオタイプが学校でのいじめや、社会での差別に繋がりかねないため、とても深刻な問題なのです。
イン・ザ・ハイツには、そんな問題を真っ向から受け止めて、変化をもたらそうとする、ムーブメント的な側面もあるから見逃せないのです!!
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なんてったって出演する俳優のほとんどがラテン系俳優。
メインキャラクター4人のうち3人がラテン系アメリカ人。残りの1人も、アフリカ系アメリカ人という、ハリウッドではほとんど前例のないキャスティング!
これが何を意味するかというと、より多くのストーリーを伝えることができる!ということ。
ギャングの抗争でも、ドラッグで捕まる話でもなく、夢を追いかける人々の日常を描く。
それにより、リアルなラテン系コミュニティの姿を映し出し、これまでに付いてしまったイメージを払拭するための一歩を踏み出している、という点でもイン・ザ・ハイツは注目を集めているのです!
スティーブン・スピルバーグ!ちょっとどいてもらってもいい??
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最後にクスッと笑える裏話をひとつ♪
イン・ザ・ハイツの撮影が行われた2019年夏。実は、スティーブン・スピルバーグ版ウェストサイド物語も、時を同じくして撮影が行われていました。
しかも、どちらの映画も、撮影地がニューヨーク!ロケ地が数100メートルしか離れていなかったのだとか!!!
ある時、ロケ地があまりにも近かったため、ウェストサイド物語のケータリングトラックが、イン・ザ・ハイツのカメラに映り込んでしまい、
「おーい!!スピルバーグ!トラックどかしてくれない?!」なんていう状況になってしまったそう!!
しかし、ピリピリしていたわけではなく、監督やキャストはこの状況をとても楽しんでいたようで、「”ニューヨークに住むラテン系の人々”をメインに描いた映画が同時に撮影されているというのは、とても美しいことだった」
と監督のジョン・M・チュウは語っています。
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また、ウェストサイド物語に大きな影響を受けて育ったリンは、自分の映画の撮影の終盤、こっそりウェストサイド物語の現場に忍び込み、撮影を見学したそうで、
「数100メートルの間にミュージカル60年の歴史を見ているようで、とても感慨深かった」と語っています。
こんな話を聞くと、イン・ザ・ハイツと合わせて、ウェストサイド物語の公開も待ち遠しくなってしまいますね♪
終わりに
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2回にわけてお届けした『今夏大注目映画「イン・ザ・ハイツ」の魅力大解剖!!』いかがでしたか??
とにかく、この映画は今まで声をあげることができなかった人たちが一丸となって作り出したパワフルな作品。
多様性が叫ばれるこの時代を引っ張ってくれるようなパワーを持つ作品です。
でも、気難しいわけではなく、コロナ禍の苦しさを吹っ飛ばしてくれるような、最高に明るくてエネルギー全開な映画だから、多くの人の心を掴んでいるのです!
イン・ザ・ハイツのレビューでよく目にするひとつのフレーズがあります。
「この映画は心へのワクチンだ!」
このコロナで疲れ果てた私たちの心に、愛とパワーをくれるイン・ザ・ハイツ。
日本での公開が待ちきれません!!!
(もし、待ちきれなくてうずうずしている人がいたら、この冒頭8分の映像を見て公開を待ちましょうっ!)